院長の清水です。
「歯科心身症」という用語をお聞きになったことはありますか?
「聞いたことが無い」方がほとんどではないでしょうか。
「心身症」という用語はいかがですか?
たぶん、聞いたことのある方、知っている方はぐっと増えることでしょう。
では「歯科心身症」についてご説明する前にまず「心身症」について簡単に説明します。
専門的には、次のように定義されています。
「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」(日本心身医学会 1991年)
ちょっと難しかったですか?
器質的って何?と思われて当然ですが、一応定義ということで。
注意していただきたいのは、「心身症」は単一の病気を指すのではないこと、そして「心身症」は精神疾患(いわゆる心の病)ではなく、身体疾患を指す名称であることです。明らかな身体疾患が無い場合は「心身症」とは呼びません。
簡単に言えば、「心身症は、発病や経過に心因が強く関与する体の病気」です。
例えばストレスが原因の胃潰瘍(胃に実際に潰瘍という肉眼で確認できる変化がある病気です)が挙げられます。
その他には、神経性皮膚炎、気管支ぜんそく、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、甲状腺機能亢進症などです。
口腔領域では再発性口内炎や顎関節症の一部が上記の定義に沿った「心身症」と言えるでしょう。
さて、私は数年前まで「歯科心身症」という用語を上記の定義にそった心身症という概念の歯科領域版というように解釈していました。
しかし、この分野に興味を持って色々な文献を読んだり、学会や研修会に参加して勉強したところ、歯科界には次のような考えをされる方もおられることを知り ました。
“一般医学で言うところの「心身症」の概念を歯科にあてはめるのではなく、歯科 特有の「歯科心身症」としか言いようのない状態(咬み合わせがおかしい、何十個作っても義歯が合わないなどなど)が存在する”
この分野がご専門の或る大学教授は「本当は、もっと適切な病名があれば良いのだけれど」とおっしゃっていましたし、別な教授は「現在は、この分野にかかわるそれぞれの歯科医師が、それぞれまちまちに解釈している状態です」と語っておられました。
私自身は「心身症」の定義は理解した上で、確かに「歯科心身症というしか仕方ない状態」は存在すると自分の経験からも考えています。
まあ、患者さんにとっては痛みや悩みが無くなれば呼び方、用語などどちらでもよいことでしょうから、「歯科心身症とは、心理的なストレスが引き金となって起こる、歯や口腔に発言する異常、不都合」くらいの 意味と理解されて良いのではないかと思います。
口臭治療分野の「口臭恐怖症」や舌がピリピリする「舌痛症」なども含まれるように思います。
さて、賢明な読者の皆さんがお察しの通り、私は歯科心身医学に興味を持っています。
今まで私が読んできた本や、かつて在籍した研究室や、精神科医の友人からの影響から、自然にその分野が好きになりました。
ふと気付くと歯科医としての自分の個性のひとつにもなっているように思うし、これからももっと勉強していきたいと思っています。
この分野は人間について深く学び知る必要があり、そこで学んだいわば「人間学」は、日常的な患者さんとの関わりにも役だってくれていると感じます。
私の愛読書「精神医学エッセンス」という本には、こんなふうに書かれています。
「人間はこの世にあって、価値を追求する精神性と自然の因果性、矛盾する聖と俗の2つの相を、あやういバランスをとりながら生きる。精神障害は、こうした こころを持つ人間に宿命的な病気であるとともに、ふだんは目にすることのない何かに出会う、人生の深淵をかいまみせてくれる。したがって、精神医学もまた、身体医学や脳科学を基盤におきながら、物質や空間構造をのりこえ、
感性や理性だけではどうしてもとらえきれない超越的な要素を内にかかえるのである」
この「歯科心身症」のページは、これからも充実させていきたいと考えています。
時々はここに立ち寄ってみてください。
歯科心身症領域では、歯や歯肉、顎関節に歯科的な問題がなくても、それらに症状 がでるという可能性が医学的にもあり得ることをご説明したり、その方の持つつらい状態を少しでも緩和できそうな内容の書籍(できるだけ新書や文庫の安価で
入手しやすい本)をご紹介して、セルフコントロールしていただくことで改善したことも少なくありません。
また、私には聞きづらいけれど、ご自身やご家族について「もしかしたら心の病気なのでは」と漠然と不安に思っている方のために清水歯科の待合室には精神医学や心に関する本がおいてあり、それを借りていかれる方もいらっしゃいます。
この分野についてご質問いただければ、歯科医師という立場と自分の力量を逸脱することのない範囲でお答えいたします。
上記写真:清水院長の学会発表時の写真(クリックすると大きくなります)